タイトルがタイトルなので、「マラドーナ」の伝記的なドキュメンタリーなのだろうと思い込んで見に行ってしまったのですが、これが大間違い! なんというか、実に不思議な後味のフィルムでありました。人によって、解釈も評価もまったく異なるんじゃないかな。それがまた「マラドーナ」らしいともいえるのですが。
この映画、実はマラドーナの他に、もうひとり主役がいます。それが、監督のエミール・クストリッツァ。サラエボ生まれの映画監督で、2作目にあたる「パパは出張中」でカンヌ映画祭パルムドールを受賞したとのこと……って、見たことないよ……とにかく、熱狂的マラドーナファンの監督は、この映画においてはマラドーナと同じくらい頻繁に画面に登場し、合間には彼が過去に監督した作品の映像も挿入されます。そもそもオープニングとエンディングは、監督がステージでギターを弾くライブ映像ですし(笑)。最初は、別の作品の予告編かと思っちゃったくらい。
それだけに、マラドーナの伝記映画を期待して来たサッカーファンにとっては、もしかしたら「ちょっと違う」映画かも。ゴールシーンは頻繁に挿入されますが、プレイヤーとしてのマラドーナよりは、引退してからの彼の生き方について、クストリッツァのインタビューに答える彼の姿が中心です。映画の冒頭でマラドーナは「サッカー選手になっていなかったら革命家」と答えているのですが、まさにその通り。
撮影は、05年から07年にかけて。アルゼンチン代表監督に決まり、愛娘の次女がアグエロと結婚した現在までまで制作が続いていたとしたら、また別のテイストの作品になっていたのではないかと思ってしまいます。
この作品を見ていて、まったく違う人物を思い浮かべてしまっていました。クストリッツァはなぜかオシムさんのようにも見え(ボスニア出身、背が高くサッカーがうまく、眼光鋭いところが似ている!?)、マラドーナの天才的かつ破滅的な人生は、マイケル・ジャクソンにかぶって見えました。数年前、生死の境をさまよったことのあるマラドーナですが、本当に死ななくてよかった。いかに彼が唯一無二の存在であるか、このフィルムを見て改めてわかったような気がします。
合間に挿入される「マラドーナ教」の教義は実に楽しく、セックス・ピストルズの曲に載せた政治的なアニメーションは何とも象徴的。マラドーナ本人が歌う曲も記憶に残ります(いい声をしていて、歌もうまいです!)。クストリッツァのファンには文句なくおススメですが、マラドーナ信者にはどうかな……!?
例によって平日昼間に見に行ったのですが、それなりにお客さんが入っていました。アルゼンチン代表ユニ着用の観客もいらっしゃいましたが、そういう人にこそ感想を聞いてみたいかな。同じ劇場では、ストーン・コールド・スティーブ・オースティン主演の映画が上映されていることを初めて知って、ついでに予告編まで見てしまい、なんだかちょっと懐かしかったです。

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