![]() | 主審告白 家本政明 岡田康宏 東邦出版 2010-08-12 by G-Tools |
昔から審判という存在には興味があって、審判本はほとんど読んできた。この本は発売前から楽しみだったのだ。
Jリーグを数年前から見ていた人であれば、「家本政明」というレフェリーの名は誰でも知っていることだろう。Jのレフェリーの中でも、トップクラスの有名人だ。だが、何が彼を有名にしたかといえば、ネガティブな事件ばかりが頭に浮かぶ。数年前までは、家本氏は「名前を聞いたとたんにサポーターがブーイング」するような存在だった。
その印象を決定づけたのは、08年3月の「ゼロックススーパーカップ」。Jリーグ開幕前のエキシビションマッチともいうべき華やかな舞台で、家本氏はカードを乱発し、退場者を3人も出し、試合後は怒ったサポーターがピッチに乱入するという荒れた試合を演出してしまった。
その後、しばらくの研修期間等を経て、2010年、家本氏はイングランド対メキシコの親善試合のレフェリーを務めるまでに「復活」する。それまでのあいだ、彼は何を考えて、どう行動してきたのか。この本は、その過程を明らかにしている。
サポーターにとっては目の敵のような家本氏だったが、以前からレフェリングの技術に対する評価は高かった。日本サッカー協会審判委員長の松崎康弘氏の著書「サッカーを100倍楽しむための審判入門」(←すごくおススメ!)でも、「非常に高い技術をもっている」と書かれている。このギャップはどういうところから来るのだろう。この本を読むことで、これらの疑問への答えの糸口をつかむことができる。
また、家本氏個人のことばかりでなく、レフェリーという存在がなぜ必要なのか、彼らはどのように試合を見ているのか、日々どのようなトレーニングを積んでいるのかについても書かれていて、非常に興味深かった。
「良いレフェリーというのは、審判を担う人だけが作り出すのではなく、選手やメディア、サポーターも含めたサッカーに関わる人すべてで作り上げるのではないかと」(P.109)
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この本のもうひとつの特徴は、語り口だ。家本氏が語った言葉をまとめたのは、サポティスタの岡田康宏氏。通常であれば、一人称にするにしてももっと手記風にするものだが、この本はまさに「語り下ろし」という形。なんというか、家本氏がしゃべっているのをそばで聞いているような感じなのだ。
「後にも先にも肘打ちをされたのは初めてですよね、彼だけです、たぶん。レフェリーに対しての暴行だから、1年以上でしょうね。普通に考えると。」(P.100)
こんな文章が活字になって続く。普通なら、いろいろ言葉を足して、きちんとした日本語にしたくなるものだ。語順も変えたくなるし、何が「1年以上」なのかも明確に書きたくなる。でも、あえてそれをしていない。その理由は、岡田氏の「あとがき」を読むとわかる。
読み始めたときには非常に違和感があった文体だったが、慣れてくると何だか家本氏の話を聞いているような感覚になってくる。「私が私の言葉で(中略)どれだけ誠実に語ったとしても、それは読者の方には届かないでしょう」と達観する家本氏の心情を伝えるには、もしかしたらこの形が最善だったのかもしれないと思うようになった。
なんというか、家本さんもそうだけど、岡田さんも勇気がある。そして、この本をこの形で出した編集者も。最近の「東邦出版」のサッカー本には手応えがある。この本もそんな一冊だ。
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そうそう、自転車好き的には、家本氏の「ロードバイクトレーニング」が面白かった! 富士山の外周120キロを走ってから通常のトレーニングとか、さらには競輪用自転車で下りでもがいて時速70kmとか、やっぱ常人じゃないなという話も楽しめました(笑)。
ほかにもいろいろ、なるほどという箇所と反発したくなる箇所があるんだけど、長くなりすぎるからここまで。とにかく読んでおいて損はないということですな。
で、今でも「家本政明」と聞くだけでブーイングするサポーターがいるけど、それはやめようよ。最近の家本さんのジャッジは評価したい試合が多いし、昔とは明らかに違う。以前のイメージを引きずりながらブーブー言う人がまだいるのは残念なことだ。
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