
昨年の大活躍~日本代表復帰と、W杯メンバーとして最も期待されていた時期に、DVDとともにリリースされた本だけあって、「よくあるW杯便乗本」のひとつかと思ってしまったのですが、とんでもない!
長年にわたる本人への取材、彼をめぐる多くの人々への丹念な取材に支えられた、実に内容の濃いすばらしい本でした。ナオファンならもちろんですが、東京ファンなら全員に「買って」読んでもらいたい一冊です。
第1章の「胎動」では、2004年のアテネ五輪を中心に、代表で苦悩するナオが描かれていきます。ガーナ戦でのナオの姿は、ファンにとっては忘れられないものでしょう。その後のナビスコ杯優勝、海外移籍報道、そして、横浜戦での前十字靭帯断裂……。トレビゾからのオファーを断り、東京に残ったいきさつについては、この本で初めて明らかになることではないでしょうか。
第2章「原点」は、少年時代~東京への移籍まで。小学生時代のナオ&モニのマッチアップ写真もあります。小学生のころからサッカーでめざましい才能を発揮していたことは知っていましたが、その後は決して順風満帆なものではなかったのですね。挫折と苦悩だらけのサッカー人生は、すでにこのころから始まっていたのでした……。
第3章「覚醒」は、2007年から2010年まで。昨年の大活躍ばかりが印象に残りますが、ここでもナオは葛藤続きです。そういえば07年のころ、ピッチに八つ当たりするナオの姿を見ては、痛ましい気持ちになっていたっけ……。そのころの彼がどんな状態だったのかも、本ではちゃんと語られています。
全体を読んでみて、改めて思うのは「苦労人なんだな~」ということ。恵まれた才能、さわやかな外見、優等生的なコメントからは想像もできないほど、逆境を何度も乗り越え、それを糧にして、常に前向きに一歩ずつ進むことによって形作られたのが、「石川直宏」というひとりのプロサッカー選手だったということです。
また、ナオがナオであるためには、多くの人々の助けが必要でもありました。本書では、そうした人々の声が、本当にたくさん掲載されています。
ざっと挙げてみると、山本昌邦、原博実、城福浩、山岸トレーナー、戸田光洋、茂庭照幸、土肥洋一、宮沢正史、浅利徹、三浦文丈、佐藤由紀彦、長澤徹、高橋正和、鍋島庵莉(プロサーファー)、山下俊義(横須賀シーガルズ時代の指導者)、高木雅史(横須賀シーガルズチームメイト)、後関慎司(横浜マリノス下部組織時代のトレーナー)、大橋正博、樋口靖洋(マリノスユース時代の監督)、日暮清史(マリノス時代のトレーナー)、そして、ご両親と弟さんたち。
これだけの綿密な取材があったからこその本なのだろうな、と思います。個人的にとても印象的だったのは、佐藤由紀彦氏のコメント。結果としては、ナオにポジションを奪われることになった彼の、ナオに関するコメントが明らかになるのはこれが初ではないでしょうか。
私自身は、ナオが移籍してきた直後から、東京の試合を見るようになりましたので、やはり彼には特別の思い入れがあります。いいときも悪いときも、代表でもクラブでもずっと見てきただけに、ひとつひとつのエピソードを読むごとにいろいろなことが思い出されてしまいました。
ナオのことを何も知らない人が読むのと、私らのようなファンが読むのとでは、明らかに印象が違ってくる本でしょう。それでも、彼のまっすぐな生き方は、多くの人に感銘を与えるに違いありません。……だからこそ、W杯には行ってほしかった……。
でも、ナオならばきっと今回のことも前向きにとらえることでしょう。彼が子供のころから憧れてきたKAZUのサッカー人生の新たな幕開けのきっかけとなったのが、W杯メンバーから漏れたことであったように、ナオの新たなサッカー人生もここから始まるような気がするのです。
著者の馬場康平さんは、「エル・ゴラッソ」で東京担当としても活躍されている方。「この本を手にとった人が、希望をもてたり、何を大切にしていけばいいかを伝えられる本にしたい」という意図は、充分に達成されているものと思います。良い本をありがとうございます!
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とはいえ、本当に些細な誤植がちらほらあるのは残念。増刷されたら直してくださいね!という気持ちを込めて、近々リストを作っておこうかと思います。そのときには、本文中の写真の解像度ももうちょっと上げてもらえるとうれしいなあ。
*追記*
スタジアムで販売された本には「正誤表」が入っていたようです。書店購入したものには入っていなかったのですが……。
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更新されたナオブログを読みながら、改めて、彼の文章の質の高さにも感銘を受ける日々……。一時期、サッカーノートを書かなくなっていたそうですが、ブログを始めたせいもあったのかもしれませんね(ノートは再び復活させたそうです)。
ナオブログも、書籍化できると思うのですが、いかがでしょうか。この本とは別コンセプトで、カッコいい写真満載のビジュアル系で。出版されたら、恥ずかしいけどきっと買うと思う(笑)。
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