

↑全2巻で気持よく完結するのが潔い
主人公は、子供のころからサッカー一筋で育った中2女子の恩田希(おんだ・のぞみ)。サッカーがやりたくてサッカー部に入ったものの、フィジカルで男子に劣るという理由で試合に出してもらえません。
成長すれば、男子と女子の差はますます圧倒的になってしまいます。試合に出られるとしたら今しかないとあせる希ですが、願いは聞き入れられません。
そんなある日、彼女は街で懐かしい人物と再会します。子供のころ、自分を「親分」と呼んで慕ってくれていた泣き虫の男の子。でも今は、身長は彼女よりはるかに高くなり、サッカー部ではDFとして活躍していたのです。彼のいる中学との試合が決まり、希は何としてでも出場したいと願うのですが……。
登場人物たちの誰ひとりとして「天性の才能」をもった人はいません。ボールを持たせればファンタジスタぶりを発揮する希とて、幼いころから現在に至るまでのたゆまぬ練習と努力があったからこそ。そんなに頑張ったとしても、「フィジカル」というたったひとつの壁がすべての希望を奪ってしまうのでしょうか。
「女子サッカー」を育ててくれる環境はなく、フットサルでは出入り禁止になり(観客にカントナキックを食らわせたため(笑))、所属するサッカー部では試合に出られない……「私はなんで女なの」とつぶやくヒロインの葛藤とあせりには痛々しいほどのものがあります。最初は、彼女がサッカーとさよならする話だからこのタイトルなのかと思っていたくらいでした。
が、そうでないことは読んでいけばわかります。「サッカー」でなくて「フットボール」というタイトルにしている理由も。だからこそ、多くの人に読んでもらいたいのです。全2巻という最小限で完結する物語は、最大の感動を与えてくれるでしょう。
プロサッカーチームを描く「ジャイアント・キリング」や、世界をめざすサッカー選手の話もいいけれど、普通の中学生たちが主人公で、必殺技も何も出てこない普通の試合をするからこそ描けるサッカーもあります。このレビューを書くために読み返したのですが、またじんわりときてしまいましたよ。
もちろん、感動だけではすまなくて、いろいろなことを考えさせられます。今は世界で活躍する「なでしこ」たちですが、未来の彼女たちが成長する場を社会は与えることができているのか……とか。
そんな問題提起はさておいて、とりあえずは魅力的なキャラクターと説得力のある画力が伝えてくれるストーリーに浸るのがいちばんいいかな。それにしても、ペレやベッケンバウアーの名言を引用する中2女子、おそるべし(笑)。
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