
この本は、2007年に我那覇和樹選手が「ドーピング違反」という冤罪をかけられた際に、いかに多くの人々がその無実を証明するために戦ったかという記録です。
事件の概要は知っており、サッカーファンとしては読んでおかなくてはという思いはありましたが、読みたくないという気持ちもありました。少なくとも「楽しい読書体験」にはならないことがわかっていたからです。実際、読んでいくうちに「はらわたが煮えくり返る」ような気分になり、無実が証明された後ですら「胸糞が悪い」とも感じました。そして、「やりきれない怒り」も……。
でも、やはりこれは読んでおかなくてはなりません。こういう事実があったことを、日本のサッカーファンは知っておくべきです。そして、今後、このようなことが起こらないように、常に気を配っていかなくてはなりません。
このノンフィクションを読んでやりきれない気持ちになるのは、本来、サッカー選手を守らなくてはならない立場の組織や人々が、まったくそれを果たそうとせず、ひたすら自身のメンツと保身だけを考えて暴走する姿を知ってしまったためでもあります。彼らは早い段階で、自分たちが間違っていることに気づいていました。そうでありながら絶対にそれを認めず、嘘に嘘を重ねて、我那覇選手サイドを追い込んでいくのです。
(時節がら、「東京電力みたい……」と思ったりもして)
サッカー選手が現役で活躍できる時間は本当に短いものです。ひとつのケガ、ちょっとした風邪のせいでポジションを奪われ、本来の活躍ができなくなることは日常茶飯事です。そうした理由ではなく、まったく意味のない冤罪で、大切な時間を奪われてしまった我那覇選手のことを考えると、ただただ怒りがこみ上げてきます。
一方で、我那覇選手の名誉を守るために、そして日本のスポーツ選手たちが間違ったルールで裁かれないようにするために立ち上がる医師たちの姿には、胸が熱くなります。支援の輪が広がっていくあたりなんて、社会派映画にしたくなるくらい。でも、「巨悪」に相当するのが日本サッカー協会とJリーグでは、映画化はできませんね(笑)。
「怒り」の一方で、自分自身への反省もあります。これだけの大きな事件だったにもかかわらず、ニュースをときどきチェックして「知ったような気」になっていたこと。そして、巨額の「CAS裁定費用」を支援するための「ちんすこう基金」の存在も知らなかったこと(この本の収益の一部は「ちんすこう基金」に寄付されるそうです)。
2007年後半から2008年前半といえば、川崎にホームで0-7で負けたり、城福東京でリベンジしたりして、川崎の選手たちのことは何かと気になっていたはずなのに。「我那覇&赤嶺が代表に選ばれるといいな~」なんて話もしてたはずなのに。ノーテンキな自分が恥ずかしい限りです。
もうひとつ。テーマとはかけ離れてしまうので、本の中ではあまり言及されていませんが、そもそもこの問題がスポーツ新聞のいいかげんな記事(「にんにく注射を打った」)から始まっていることも忘れてはなりません。
スポーツ新聞の記事というと、われわれは「誤報もあってあたりまえ」「眉唾」みたいな感覚で読むこともありますが、そんな記事がひとりの選手の選手生命を奪ってしまうこともありうるのです。報道する立場の人には、その使命と責任を充分に考えてもらいたいものです。
◆
世の中にサッカー本はゴマンとあり、ライターさんもたくさんいらっしゃいますが、新刊が出たら必ず購入すると決めている数少ない書き手が木村元彦さんです。今回もずっしりとした読みごたえで、読後はしばらく呆然としておりました。
……そういえば、「溝畑宏本」も、刊行直後に読んだのにちっとも感想書いてない……。シーズン始まる前に書いておかないといけませんね~。
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